劇場アニメ「この世界の片隅に」感想。「朝ドラ」にも通じる『日々の暮らし』の楽しさ、尊さ
劇場アニメ「この世界の片隅に」観てきました!
(劇場で買ったパンフレット)
今年は「君の名は。」に「聲の形」と日本アニメ映画の大当たり年ですが…
ついに感動して、泣かされましたね。年末近くのコレでついに。「当たり年」の締めくくりにふさわしい素晴らしい一作でした。
大阪のテアトル梅田で観てきたんですが、自分が観た回より前の回はすでに満席、自分の回もおそらく満席…の大盛況。予想はしてたけどそれを上回る客入りで。
さらにオッ!と思ったのが、規模の小さいアニメ映画にもかかわらず中高年以上の方々の客層も多かったこと。
戦時中を取り扱うジャンルではある意味メインターゲットかもですが…いっぽうで、こうの史代タッチを再現した柔らかいビジュアルが、普段アニメに縁遠い人でも惹かれるものになっているワケですかな。
つーことで感想ドバーっと書き散らしておきます。
「朝ドラ」や「ハイジ」に通じる『生活描写』を楽しむ感覚
生活描写の丁寧なアニメーション。本作はやっぱまずはこれについて。
つい今日読んだ本作の片渕監督へのインタビューのなかに、こんな監督の一言を発見しまして…
日常生活というのは、アニメーションでやると、たとえば「ご飯を炊く」というだけでも見応えがあるんですね。
本作は戦時ドラマではありますが、その前にファミリードラマ…もっと具体的に言うなら「朝ドラ」的な楽しさが詰まったアニメ作品だなと。
戦時のなか、嫁ぎ先で活き活きと家事に奮闘するヒロイン・すずさん。そのたくましい姿に、女性が日常生活の中で活躍する「朝ドラ」に通じるものがあると思います。
また、監督のいうとおり女性が家事をしているだけで見入ってしまうこの不思議な感覚…
「朝ドラ」とは別に例えるなら、「アルプスの少女ハイジ」の山小屋暮らしや羊飼いの仕事…「もののけ姫」のタタラ踏みの女性たち…のああいうシーンになんだか見入ってしまう、あの感覚。
監督の片渕さん自身、経歴の中でジブリ作品を演出を担当してたとのこと。
ドラマやスペクタクルだけでなく、そういう「生活描写」にも力を注ぐスタジオジブリ的な感性…
片渕監督が持つそれが原作マンガと非常にマッチしていて、アニメ化においてもバッチリと作品のなかで表現されているのだと思います。
そういう点でとにかく「朝ドラ」好きな人は絶対観てほしい!観るべき!
なので、自分でもいつになくカーチャン(無論朝ドラ好き)に大プッシュしまくっときましたw
ヒロイン・すずの温もり
先ほど「朝ドラを思い出す」って書いたんですが、すず役の声優さんにのん…能年玲奈さんが起用されてることも大きいかも?
当初は芸能人声優が主演ってのが唯一不安点でもあったんですが、ところがどっこい。
のん演じるすずさんの、おおらかで朴訥とした広島弁。
柔らかい声のトーンがアニメのキャラデザと絶妙に合っていて不安はすぐ吹き飛びました。
そして主人公であるすずさんはじめ、キャラのビジュアル・動かし方も良いんですよ~
原作未読なんですが、特に女性キャラクターが「しな」を作るように少しナナメに身体を傾けて動くんですよね…このアニメーションが独特で。
小首をかしげるような、身体も少し重心を横に預けるクタッ…と。そこから見上げる目線になったり…
見ていてなんとも愛らしく、顔だけでなく全身から「表情」が伝わるようでもある。
キャラクター自体はデフォルメされた絵柄でありながら、そこにいるのは作り物じゃない。言わば生きているすずさんの「体温」すら感じてきます。
そんな風に思いながら映画を観ていると、こんどは端々にある「男性キャラがすずさんに『触れる』シーン」がめっちゃ印象的に思えてきます。
例えば、すずさんの夫・周作は、安全な事務仕事から実戦的な海兵団へ配置を移される直前、ふとすずさんの頭に手をやって「すずさんはこまいのう」とつぶやく。
また思いがけず再会した幼馴染の水兵・哲は、夫のいるすずを抱き寄せてしまった後に「すずは…やわいのう、ぬくいのう」という一言を漏らす。
自分はなんだかココで一番ジィーンときました…。やっぱ男だからかなぁ~。
妻と家族との生活から離れ戦火に呼ばれる夫、戦艦からひととき陸へ上がった水兵、どちらの男も「死」を間近に感じる境遇。
そのなかで、前述の『すずさんの「体温」』を目にしたとき…その体温に触れていたい、すずさんという「生」を感じたい。
そんなふうに思えて、自然とすずさんに触れたくなったくなったのかなぁと。
ともかくこんな風に映像から感情を揺さぶられるのは、やはり原作の描写に加えて
すずさんがそこに「生きている」ように感じられる、優れたアニメーションの賜物だなと。
落下物のリアリティが伝える空襲の恐怖
感想のここまでで「戦争」については触れてなかったですが、劇中ですずさんたちを直接苦しめる空襲の描写について目を見張るものがありました。
それは降ってくる「モノ」のリアリティある描写。
というのも、自分は空襲というと『火垂るの墓』の焼夷弾しかイメージがなかったんですよね。
しかし「この世界の片隅に」では、自分で観ただけで砲弾の破片、機銃掃射、焼夷弾、そして原爆…の4つの兵器が空から降り注いできました。
砲弾の破片は家屋の天井を貫き、機銃掃射で地面はえぐれ、焼夷弾は呉の街並みを焼き尽くし、原爆はなにもかもを吹き飛ばし…
降ってくる凶器ごとにリアリティのある描写が成されています。
空襲=焼夷弾で家が焼かれるイメージしかなかった自分には、こんな色んな種類の凶器が、突然上空から自分たちに降りかかってくるのか…と恐ろしい。
もしや今までの観た戦時中フィクションのなかで観ていて一番「空襲はこれほど恐ろしいものだったか」と思えました。
余談ですが、公式サイトにある著名人コメントのなかで、偶然にも同じように
これから戦争を語り継ぐにあたって、とても大切な映画が誕生した。
空襲のシーンは、これまで見てきたどの映画よりリアル。ついにそれがどういうものであったかがわかった。———塚本晋也(映画監督)
という塚本晋也監督による感想もあって…やっぱここの描写はスゴイのだろなと確信。
「火垂るの墓」に並ぶ、新たな戦時ドラマの傑作アニメ
と、長々と感想を書き散らしてみました!
ラストシーンまで観て浮かんだのは「日常を過ごすことの尊さ」「生きていることの有り難み」でしょうか。
戦時中のドラマゆえ余りに悲しい場面も多々あるのですが、だからこそ同時に、すずさんとその一家皆々のたくましく賑やかな『暮らし』の姿。これが愛おしいというか誇らしいというか…
幼馴染で水兵となった哲が語った「すずは平凡じゃのう。普通じゃのう」「でもお前だけは普通のままでいてくれ」という言葉。
感想を書くいまこれを思い返すと、その切実な願い・メッセージが胸に沁みます。
公開規模が少ないのが本当に悔やまれますが、ぜひスクリーンでその柔らかな色彩による風景とキャラクターの姿を観てみて欲しい!特にすずさんの表情、動きも…
もうそんな感じでとにかくオススメの作品です!
過言でなく、「火垂るの墓」から今の時代へ、アニメによる新たな戦時ドラマの傑作が出てきたよ!と言えるので!
みんな早く観に行くんだー!