気楽なコメディから始まる「戦争という時代」への怒り。岡本喜八「肉弾」感想
過去の「シンゴジラ×岡本喜八」な記事にアクセスがいまも多くて、恐れ多いというか恐悦至極というかな日々…
その記事の末尾に、岡本喜八監督の「肉弾」という映画のアマゾンリンク貼ってるんですが、調べたらこれのクリックがかなり多いみたいで…同監督の「沖縄決戦」より数倍あったり。
これ密かに注目度が高い…?それならならせっかくだし観た感想とか書いといくべきじゃん?!っていう今回はそんな感じです。
戦時モノなのにどこか気楽な物語の導入
まずこの映画で驚いたのは、思ってたより全然親しみやすく、気楽に見始められたこと!
なんせ「肉弾」ってなんだかおっかないタイトルだし、戦時中を描くドラマならシンミリなのかシリアスなのか…そんな抱いてたイメージとのギャップに驚きです。
あらすじとしては、主人公が肉弾特攻を命じられたその前日、最期の休日を過ごしそして…って感じ。
ただ映画が始まってみると、さえない風貌の主人公が食べ物を盗んだ罰でハダカにひんむかれたり、立ち寄った本屋のじいさんのおしっこを手伝ってあげたり、死ぬ前にせめて童貞を捨てようと売春宿に行ったら『バケモノ』が出てきて強引に襲われトホホ…
という感じで、なんとも笑いどころが満載。
初々しい女学生ヒロインとのロマンスも描かれるし、各シーンのテンポのよいセリフまわしや個性のきいたキャラクターたちがみな活き活きとしています。
もちろん戦争時代を描くので悲痛な場面もあるのですが、楽しく見れる青春映画のようでもあって、ここら辺が思ったより見やすい・親しみやすい作品だなーと思ったゆえん。
あまりに無常で滑稽な主人公の最期
ヒロインとも相通じ合い、様々な人たちの出会いから自分の生きた時代を想いつつ休日を終え、いよいよ使命を果たすときが!と決意する主人公。
しかしこの終盤あたりから、「戦争」というものの影がにじみよってきて、その短かい休日で過ごした思い出も、出会った経験や決意も、無残に崩れ去っていくなんともやるせない展開に。
最期の最期には米軍へ一矢報いるチャンスが到来し、主人公は怒りに満ちたまさに「肉弾」の近接特攻を仕掛けるのですが、なんともバカバカしい構図で攻撃はあえなく失敗。
復讐も果たせなければ、死してあだ花になることすら出来ず、そのまままったく戦場とは関係ない場所で、これまたバカバカしい成り行きのすえ死を遂げる主人公…ラストは強烈に皮肉な演出でもって物語が終わります。*1
一市民をどこまでも嘲笑い翻弄した「戦争の時代」への怒り
薄情な言い方をすれば、この映画の主人公はまるで哀れなピエロのようです。戦争末期という時代に翻弄されて、笑おうにも笑えないこっけいで無常な最期で青春を終えて…
つまりは、戦争という時代はどこまでも一市民を巻き込んで苦しめ、弄び、道化のように仕立てあげて、笑い者にして…ふざけるな!馬鹿野郎!という時代への怒り。反戦と平和への祈りを…なんてしんみりセンチメンタルなのとは真逆で、もっと激しくダイレクトなメッセージを発している作品だなと。
もし自分が観た映像作品のなかで"太平洋戦争の苦しみ"を知れる作品といえば?と聞かれたら、一兵士の苦しみを知りたいのなら「ザ・パシフィック」*2。一市民の苦しみを知りたいのなら「肉弾」を見るべし!と答えたい。